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vol.9

 買い付けで渡米すると、必ず2〜3回はコインランドリ−のお世話になる。私は、コインランドリ−が大好きだ。あのアメリカ特有の洗濯洗剤の甘くやさしい香りがたまらなく好きだ。しかし、コインランドリ−には、もっと魅力的なことがある。それは、人間ウォッチングができることだ。いろんな人が来て、洗濯をして帰っていく。ただ、それだけなのに、そこにいるといろんな人の生活の一部を覗いた気分になる。
 今回は、利用者のほとんどがナヴァホの人たちというコインランドリ−での様子を書いたお話である。
 いつもお世話になっている、ナヴァホリザベ−ション近くの町のコインランドリ−へ、今回もせんたく袋を背負ってやってきた。コインランドリ−に入ると、何台もの乾燥機の熱気にのせられて、洗濯洗剤のさわやかな香りが出迎えてくれる。私は、本当にアメリカの洗剤や柔軟剤の香りが大好きだ。甘くて、さわやかで、とにかくやさしい香りだと思う。
 そこは、洗濯機だけでも30台くらい、乾燥機は20台くらいで壁際にはアイロン台が並べてある。ほとんどが稼働中であるからすごいもんだ。ほかは缶ジュ−スや洗剤の自販機、両替機、コ−ヒ−メ−カ−を置いてるカウンタ−とテレビが1台あるだけ。
 まずは、洗剤を自販機で買わなければならない。洗剤を買うときもそうだけど、コインランドリ−&乾燥機にもクォ−タ−コインしか使えない。だから、こういう時の為にクォ−タ−が手に入ると使わずにとっておくことが多い。・・・・が、今回は手持ちのコインの枚数が少ないので両替機のお世話になる。すると、私達のそばに近寄ってきて「お札は、ここに入れて両替するのよ、そして、これとこれは洗剤、こちらは柔軟剤、これは乾燥機に入れて使うのよ。」と、ご丁寧に両替から洗剤を買うに至るまで一手に教えてくれる人がいた。「あっっ、この人は!!!」実は、この人(女性)は、ここのコインランドリ−の管理者なのだろう、以前、来たときも不慣れな私達にいろいろと親切にしてくれたおばさんである。
 彼女のご指導のもと、無事私達の洗濯機が稼働し始めた。あとはもう、仕上がるのを待つだけ!!!大好きな人間ウォッチングの始まり始まり。
 まずは、空いてるイスを見つけ席を陣取り、コ−ヒ−でも飲んで一息いれようと小銭を準備した。すると、目の前を1人の老母が通り過ぎた。・・・と同時に私の目は彼女にクギ付け。
 見たところ、年齢は75歳くらい、ビロ−ドのシャツにフレア−スカ−トというナヴァホの普通のおばあちゃんという服装なのだが、シャツの胸元や手首、さらに指にはタ−コイズのジュエリ−が目白押し。ネックレス、ブロ−チ、ブレスレット、リング・・・・こんなに着けているのに、嫌らしさもくどさも感じられない。やはり、彼女たちにとってのタ−コイズのジュエリ−というものは、オシャレというよりもむしろお守りなのだ。そう思うと、彼女(のジュエリ−のつけかた)に、より一層好感が持てた。
 さらに、彼女の行方をみていると、彼女もコ−ヒ−のカウンタ−へ行き、紙コップにコ−ヒ−を注いでいた。「あれっ?あのおばあちゃんコ−ヒ−のお金払ったっけ?」疑問が湧いてくる。しかし、彼女はなんの後ろめたさもなく堂々とコ−ヒ−を飲み始めたではないか・・・。私の勘違いか−と思ったとたん、カウンタ−の方で大きな怒鳴り声が・・・・。大声を出して怒っているのは、先程の親切な管理のおばちゃん、その声の先にはあの老母。やはり、お金を払わずタダ飲みしていたらしい。
 ・・・・Ah〜、まずい。私も今、手のひらにコ−ヒ−代の小銭を準備し、いざ行こうと思っていたところなのに、あの険悪な雰囲気の中では、行くに行けないじゃないか〜・・・・・
 ここは、ひとまず気を持ち直し、お金を払って飲むのだから、なにも恐れず堂々としていればよいのだ。まずは、管理のおばちゃんにコ−ヒ−代を払い、紙コップにコ−ヒ−を注ぐ。すると、おばちゃんが何か言ってきた「ミルクと砂糖はここよ!!」と、ニッコリ。やっぱり親切だ。
 コ−ヒ−も無事手に入り、元の位置でじっくりと続きの人間ウォッチング・・・・
 続々と利用者は入ってくる。みんな手には、衣類がいっぱい詰まった45リットルのゴミ袋を3〜5袋はぶらさげている。中には、家族総出でピックアップトラックの荷台に10袋近くも山積みし洗濯物を持ってくる人もいる。「よくもまあ〜、こんなにためこんだもんだ」と、感心してしまう。
 それだけではなく、もっと驚いたのはそれぞれの洗濯物の中のジ−ンズの数。一家族で20本!!しかも、きれいにアイロンまでかけている。さすがジ−ンズ大国アメリカだと、またまた感心してしまった。
 今度は、10歳くらいの少女が入ってきた。彼女は洗濯物を持ってきたのではなく、片手に重そうにバスケットをぶら下げて入ってきた。そしてちょっと照れながら、コインランドリ−にいる人に、順番に声をかけている。どうやら、バスケットの中の食べ物を売り歩いているようだ。数人に断られ、それでも次々に声をかけていく、私は密かに心の中で彼女を応援した。また、誰か買ってあげないかなあと、思っていた。
 すると、3歳くらいの女の子をつれた母親が、子供の為にと、その少女から買っていた。早速、女の子はうれしそうに食べ始めた。それはアルミホイルにつつまれたタコスのようだった。お家で母親が作ったのだろう、少女はバスケットいっぱいにタコスをかかえ売り歩いているのだ。
 女の子が食べているのを見て私も無性に食べたくなった。ファ−ストフ−ドやレストランの物ではなく、まさにナヴォホの家庭の味だと思えたからだ。いよいよ、私達の方へ少女は近づいてきた、私は心の準備をし、女の子がなおもおいしそうにタコスを食べ続けているのを確認した。そして、その時少女はニコリと私達にほほえみ、そのまま目の前を通り過ぎていってしまった・・・・
 こういう物を売り歩く光景は、コインランドリ−に限らずレストランなどでもよく目にするのだ。タ−コイズのジュエリ−や壺などを売り歩いている。一度「No,thank you !」と答えるとあきらめて二度とは来ない。しかし、こういう人たちが何人も何組もくるので大変だ。年老いた老人から大人、子供たち、様々である。だが、この時のように声をかけられず、目の前を通り過ぎて行かれるのも、むなしいもんだ。
 気が付くと、乾燥機は止まっていた。きれいにたたんで私達の洗濯は終了となる。再び、せんたく袋を背負い帰り支度。ふと、コ−ヒ−のカウンタ−に目をやると、管理のおばさんとあの老母が仲良く世間話をしていた。どうやら、和解したようだ。他人事ながら、ホッとしてコインランドリ−を後にした。
 あれから早2ヶ月、アメリカへ持っていった衣類たちには、すでにアメリカの香りは残っていない。ちょっぴり寂しく感じ、日本で売られているアメリカ製洗剤を大金で買う、今日このごろである。